九月二十七日

日電音編集部の川崎青年と、スモール・サイズ・ペンドルトンの前田君(前田興行)が来訪。新しい企画のお誘い。
「なにか、文学作品とそれにまつわる音楽を各回一つずつ取り上げる以外のものも考えてみませんか」
「いやあ、駄目だ。へたばっている」
「・・・」
「文学と音楽と場所をめぐるクロスポイント以外は何もやらないつもりだ」
「・・・」
「のんびりと暮らしたい」
なんだか二人がニヤッと笑ったように思われた。不気味だ。何かあるゾ。
「ご承知のように、無職で金欠だ。腹も出てきたし酒も弱くなった」
僕は、今年、サイゾーという雑誌の連載(「東京サーチ&デストロイ」)を六回で中止している。それに西武の講義も延期させてしまった。そうそう迷惑をかけるようなことはしたくない。恥をかきたくない。
「だから考えてきたんですよ。いやマジで」
前田君は以前、江古田に住んでいたのである。
「持ってゆくうた、置いてゆくうたの番外編として、温泉へ行っていただきたい。温泉へ行って、のんびりと静養してもらいたいんです」
川崎青年が後を続けた。なんだか二人組のテープ編集によるコンパイルド・ミュージックを聴かされているような気がする。
「番外って言ったって、結局は、演奏するんだろう。あと講義も」
「それはそうです。これからは松本日之春の時代です」
なんてことを言う。うまいことを言う。あとで一人になったら、松本日之春の時代? いくら考えても何のことかわからない。
しかし、僕もこういう企画は、嫌いな方ではない。いや、好きな方と言ってもいいかも知れない。悪ノリしてしまうことにした。温泉、おおいに結構じゃないか。