九月二十三日

賀茂川が分岐するところまで自転車で北上して、その後に街中をぐるぐる回って宿まで戻ったら、多分細かい結界のサインの影響を受けすぎて偏頭痛が。霊場は鎌倉より隠微かつパワフルな印象。長くいると結構しんどい。よそ者は同じ道ばかり通るようにナビゲートされているような街の造りだ。朝はフランソワ喫茶室で紅茶。カルバドスを垂らしてからいただく。タイトなシルエットの白いレースの襟がついたグレーとスカイブルーの中間色のワンピースを着た店員を眺めているうちに、今回の公演は「抽象再訪」という企画の一環であるからといって、舞台は完全な抽象ではなく当然具象に満ちているわけであるから、音楽に具象の要素を導入することを決意する。二鶴に戻り八音平均律音階による電子音で現実音を模倣し、セリーを導出して昨日作曲したミュジーク・コンクレートとミックスして再構築。本番にどうにか間に合う。武満徹へのオマージュ。電子音と現実音を使用したからといって、それは電子音楽とミュジーク・コンクレートの融合にはならないことが露呈したわけだが、聴感上は昨日までの音とまったく違いはないので、誰にも気づかれなかったようで安心する。昼は大丸地下で松茸弁当(包装がゴージャス)と錦市場で豆大福と栗大福(しょっぱくて旨い)。本番終了後、開放的な気分で仏教書を探すついでに三条寺町の有名な民族楽器専門店に行ったら、改装したのかな、すごい綺麗になってて、ちょっと拍子抜け。でもさすがの品揃えだった。「叩く時は一言声を掛けて」と注意書きがあるジャンベなどを、「これさー」とか言いながら無造作に叩きまくる馬鹿カップルが入ってきたので恐怖を感じて退出。本能寺の「能」の字が、なんかちょっと違う書き方だったのは目の錯覚か。絡まっている蔓にいくつか蕾のあるのが見える。

武満論考が掲載されたムック、23日の時点でもう書店に並んでいるようでした。以下データを記載しておきますのでご高覧賜われれば幸甚に存じます。

青山真治、大友良英、大谷能生司会.<対話>あの独特の音世界は僕らのなかに刷り込まれている.
◎Kawade道の手帖 武満徹.河出書房新社,2006/09:80-96.

大谷能生.<論考>現実、ぼくの唇が火傷しないのがむしろ不思議というべきだろうか。ミュジーク・コンクレートとシュルレアリスム.
◎Kawade道の手帖 武満徹.河出書房新社,2006/09:98-105.

あと、オーディオ・コメンタリーで参加した冨永昌敬監督のDVD「シャーリー・テンプル・ジャポンpart1&2」が9月30日にリリースされています。30男二人で本谷有希子さんを悪女にしたてようと悪い話を振りまくる邪悪な座談会。