開店が比較的みな遅い横浜橋商店街の魚屋を叩き起こす勢いで食材を買いあさり、トロ箱に詰めて高速バスに乗って、終ってない仕事をすべて置き去りにして山中湖に向かう。湖畔のk氏別荘にてモルト合宿2006開催。今回のモルト合宿は、日電音無事出版ホントーにおめでとう打ち上げ合宿であり、枝豆合宿であり、炭火の実力再発見合宿であり、小市民的倫理観によるもっともらしい物言いに疑問を呈する合宿であり、一瞬訪れては消える古今東西合宿であり、ブラバンの居残り練習を陰から見守る合宿であり、麺合宿であった。詳しくは書かない。
「日本の電子音楽」 (著:川崎弘二 協力:大谷能生) 愛育社
白金の庭園美術館で会った黛敏郎は、カラスの群れにおびえてた。
代官山のショットバーで、ヘルベルト・アイメルトは、熊を一匹残して姿を消した。
大森キネカで会った武満徹は、泪橋が見たいと言った。
代々木上原の回教寺院を眺めながら、柴田南雄は、四歳の頃の話をした。
赤坂の韓国料理店で、松下真一は夢みるように、鯨のことを話はじめる。
自由が丘で会った秋山邦晴は、ベーコンをカリカリに焼くのがうまい。
谷中の墓地裏の坂道で、ホイヴェルツは、「岡倉天心てだぁれ?」ときいた。
麻布十番のたい焼き屋で、小杉武久は、「ここん家の娘になりたい」とつぶやいた。
池袋演芸場で、クセナキスは、誰も笑っていない噺にプッと吹き出した。
恵比寿の「ビヤステーション」で、大野松雄は、ブルートレインの座席にもたれて涙ぐむ。
隅田川の水上バスに揺られながら、芥川也寸志は、高校時代の話をした。
東京タワーの展望台で、湯浅譲二は、「高いところにのぼると興奮するわ」と言う。
不忍池でハスの葉を眺めながら、諸井誠は、クスクス笑い出した。
下北沢の「ザ・スズナリ」で、シュトックハウゼンは、甘酸っぱい気分を残して消えた。
神楽坂の居酒屋で、一柳慧は、「小さな声で話しましょう」と言った。
南青山五丁目の「フランセ」で、近藤譲は、雑巾を縫った話をした。
神田須田町のアンコウ鍋屋で、松平頼暁は、ひどくまじめになった。
四谷の土手を歩きながら、シェーンベルクは、「夕焼けがきれいね」と言った。
歌舞伎座の三階席で、瀧口修造は、熱心に小さな手帳にメモを書いた。
京成立石のキャバレーの暗闇で、水野修孝は、関西ナマリで囁いた。
駒込の六義園で、篠原真は、「ここに来たのは、二度目よ」と言った。
紀尾井町の坂道をのぼりながら、ウェーベルンは、ダルそうに微笑んだ。
新宿御苑の大温室の中で、高橋悠治は、しきりに熱帯睡蓮の花を探した。
六本木飯倉で会った塩見千枝子は、「戦前の歌謡曲に凝ってるの」と言う。
西麻布の交差点をわたってくる大谷能生は、大きめのコートがよく似合う。
アークヒルズのベトナム料理店で、前田憲芳は、死んだ犬の話をした。
上落合の月デ編集部で、川崎青年は、「正弦波でコンプレックスな音を作るには、限界があったようで…」と言った。
そうして、目を閉じると、深夜に武満君や湯浅君、秋山君や鈴木君なんかが集まってきて、『ジル、ドミニーク、ドミニク、ジール……』と歌いながら、みんな輪になって朱儒のような奇怪な踊りをつづけたりしている…。
戦後日本音楽界、電子無理矢理、100%。