「VOGUE AFRICA NAKED」
2003年に発売された東京ザヴィヌルバッハのセカンド・アルバム「VOGUE AFRICA」は、坪口昌恭、菊地成孔、オラシオ・エル・ネグロ・エルナンデスによるスタジオ・セッションを、坪口が編集・加工することによって作られた ものだった。機械音と生のドラム・サウンドが絶妙にブレンドされたこのアルバムのグルーヴは実にフレッシュであり、まだフォロワーがいないほど独特なもの であると思うが、この冬、オラシオの監修の元、このセッションの様子をノー・エディットで収録したアルバムが発売されることになった。タイトルはずばり、 「VOGUE AFRICA NAKED」。まったくの完全即興であったというこのセッションの完成度の高さについて、また、現在最高のドラマーの一人であるオラシオがこのセッション でのプレイを自ら絶賛している、というような話は、「VOGUE AFRICA」発売当初から話には聴いていたが、その噂をこんなに早く確認することが出来るとは思わなかった。
ブレイク一回だけ(二曲という区切りで収録)、40分弱をほぼ一気に聴かせるこのドキュメントは、「VOGUE AFRICA」のトラックで使われていないサウンドも沢山含まれており、二枚のアルバムを聴き比べることで、坪口昌恭がどういった時間感覚と色彩感覚で もって「VOGUE AFRICA」を構成していったのかを推測、分析することも出来るだろう。だが、それはともかくとして、「あのセッションは最高だった!(だから編集ナシ でも十分イケてるだろう? ほら! どうよ、この俺のドラミング!)」という、オラシオ・エル・ネグロ・エルナンデスの自負はホントに正しいと思う。ここ での彼のドラム・プレイは聴き所多数、アイディアの宝庫であり、一瞬たりとも緩みというものがない。比較的BPMをつかまえ易いシーケンスが使われている とはいえ、その反応の速さと正確さ、そして流れに乗った後の爆発力まさに驚異的だ。なんとなく雰囲気であわせてゆくのではなく、マシン類の(実際には鳴っ ていない)基礎クリックを完全に把握して繰り出される多彩なフレーズは、もう随分昔からこういう音楽があったのではないかと思ってしまうほどサイボーグな アンサンブルの中に溶け込んでいる。特に二曲目の冒頭、一瞬のブレイク後、シーケンスが切り替わって如何にもマシン・サウンドなハンド・クラップとベース 音が鳴り始め、坪口がヴォコーダーでソロを取り始めた瞬間に繰り出されるオラシオのシンバル・ワークの美しさよ!
坪口・菊地体制になってからはまだライブ・アルバムを発表していない東京ザヴィヌルバッハだが、これはスタジオ・ライブ盤として、各プレイヤーの個人技 を心行くまで部屋でリプレイすることの出来る、ファンにとっては嬉しいボーナスとなるだろう。「コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッション ズ」も、「レット・イット・ビー・ネイキッド」も、オリジナルが出てから三〇年ほど経ってようやっと日の目を見たのだった。時代は着実に変わってきている な。