・Charles Mingus チャールス・ミンガス / 『mingus at monterey 』 (ヴィクター 1964)
body(350):デューク・エリントン直系のコンポーザー/オーケストレーターであったミンガスは、モダンの時代にあっても根本的にはプレ・モダニズ ムな姿勢でもって自身の音楽を遂行しようとし続けたミュージシャンであった。バンドのミュージシャンに対して、彼らの演奏能力を最大限に揮うように求める のはリーダーとしては当然のことだろうが、例えば『Pithecanthropus Erectus』などのスタジオ作品における、自分のイメージを何とかしてグループで表現しようとメンバーをコントロールしてゆくその拘束感は、殆どクラ シックのアーティストに近い感触がある。ここで取り上げるモントリオールでの12人編成ライブは、彼が率いたグループの中でもアンサンブル的にはベストの 出来映えだ。ベースソロによる『I’got it Bad』は必聴。
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・Duke Elilington デューク・エリントン / 『The Best Of Early Ellington』 (Decca 1996)
body(350):1926年から1931年の間に吹き込まれたデューク・エリントン・オーケストラの作品から、代表的な20曲を年代順にまとめたベス ト盤。キャリアのスタートとなったケンタッキー・クラブ時代の『East St.Louis Toodle-O』からもう既に、後に炸裂するファンタジックな異国趣味が横溢しており(エリントンはワシントンD.C.育ちのボンボンで、彼にとってセ ントルイス=アメリカ南部ははっきりとエキゾチズムの対象であった筈だ)、この時代に「アメリカ人」は「アメリカ」をどのようにイメージしていたのか、ま た、それは三〇年代以降(デュークらが提供したポップスによって?)どのように再編成されていったのか、ということについて、古典を鵜呑みにするのではな く聴き取っていきたい。
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・Max Roach マックス・ローチ / 『Percussion Bitter Sweet』 パーカッション・ビター・スウィーツ (Impulese! 1961)
prof(150)::1924年生。NYシティ育ち。二〇代でチャーリー・パーカー・グループに参加し、ジャズ・ドラミングの改革に大きな役割を果たす。オリジナル・ビバップ・ドラマーの一人。
body(570):ビバップ・オリジネイターのラスト・マン、マックス・ローチ。きりっとした楷書を思わせる、一字一句をゆるがせにしない彼のドラミン グは、五〇年代モダン・ジャズの基礎脈動の一つだ。ロリンズ『サクソフォン・コロッサス』における多種多様なビートの叩き分けはおそらくこの時代彼にしか 出来なかった作業であり、殆ど神話的とさえ言える輝きを残しているクリフォード・ブラウンとの双頭コンボ作品とともにオススメの第一に挙げたいところだ が、ここではもしかすると今ではあまり聴かれることの無くなったかもしれない、一九六〇年代前半のリーダー・アルバムを取り上げたい。ローチはフリー・ ジャズ・ムーヴメントに先駆けて、どのジャズ・ミュージシャンよりも早く、積極的に、アメリカにおける黒人問題について直接アピールする音楽を製作して いった。『Percussion Bitter Sweet』は、『We Insist!』(60)や『It`s Time』(62)とともに、中南米やアフリカといった有色人種の音楽へのラインをきっかりと示したアルバムであり、ローチはこれらの作品を作っていた時 期、カーネギー・ホールでコンサートをしていたマイルスの舞台に、「フリーダム・ナウ!」というプラカードを持って座り込むという事件も起こしている。一 曲目の『Garvey’s Ghost』に溢れるポリリズムは、「モダン」を通過した黒人たちによるアーバンなバーバリズムが体現されており、六〇年代の前半にはこのサウンド自体に 政治的な主張が含まれていたのだった。
sub(100): Max Roach / 『We Insist!』(candid 1960)
おそらく「座り込み」運動を描いたジャケ――ドライブ・インの白人専用のカウンターに座り込んだ黒人たちが、ドアから入って来た客(白人)の方を振り返っている図――も鮮やかなキャンディド作品。アビー・リンカーン全面参加。
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・George Russell ジョージ・ラッセル / 『Jazz in the Space Age』 宇宙時代のジャズ (DECCA 1960)
body(350):一曲目のタイトルが『クロマティック・ユニバース-パート1』であり、イントロに流れるスネアを使って発しているらしい電子音を模し たSE(ラッセル自身が演奏)からして、もう既にアカデミズムな香り&ミスティフィカシオン性たっぷりの『宇宙時代のジャズ』。ところがこれ、アーニー・ ロイヤルやミルト・ヒントン、バリー・ガルブレイスといった名手に恵まれ、かなり骨太なアルバムに仕上がっています。ビル・エヴァンスとポール・ブレイと いう、この時期キレキレのピアニストをLRにソリストで迎える、というアレンジも実に格好いい。ホーンの抜き差しも凝っていて、五〇年代科学主義の最後を 引き受けた音楽として、未だ色々な側面から(ジャズの文脈外でも)聴く事の出来る貴重なアルバムだ。
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・Miles Davis マイルス・デイヴィス / 『Miles Davis&The Modern Jazz Giants』 (prestige 1956)
body(350):マイルスとセロニアス・モンクの共演が聴けるアルバム(『Bag’s Groove』の一曲はこのセッションからのトレード)として有名な一枚。モンク以外のリズム隊はMJQのメンバーなんだけど、これはプレステッジのボ ブ・ワインストックがジョン・ルイスを毛嫌いしてたから、と言われている。ありそうな話だが、ミルト・ジャクソンとモンク、それにマイルスの組み合わせは 音色的にも最高。ドラッグによる長い不調期を脱したマイルスが、自身の音楽創造に向けてセッション全体をコントロールしはじめた時期のアルバムで、「54 年クリスマスのケンカ・セッション」というレッテルは目を引くけれど(詳細については他の本を当ってください)、この見事な演奏を出来映えを聴いてそんな 発想をする人間の感性は疑った方がいい。実に瑞々しいサウンドだ。
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・Lee Konitz リー・コニッツ / 『Subconscious-Lee』 サブコンシャス・リー (prestige 1950)
prof(150)::1927年シカゴ生まれ。スウィング・ジャズ期から現在まで、独特の音色とフレージングで唯一無二の個性を誇る白人サックス・プレイヤーの代表的ミュージシャン。ビッグ・バンドから無伴奏ソロまで、さまざまなフォームで作品を残している。
body(570):1949年から50年春に掛けて吹き込まれた、リー・コニッツを中心にしたセッションを一枚にまとめたアルバム。実質上レニー・トリ スターノのリーダー・セッションである1~5曲目は、プレステッジ・レーベルの船出となる記念すべき初録音。この時期、バップがようやっとメジャーなもの になって来ていたとはいえ、世はまだスウィング・ミュージックの大全盛時代であり、そんな中でこれほどアブストラクトな、混じりけのない硬質な輝きを見せ るソロが並んでいる吹込みが生まれたのはある種奇跡に近い。以後、一貫して「モダン・ジャズ」をリリースし続けるプレスティッジの誕生を祝福する魔法がこ こにはかかっているのだと思う。リー・コニッツはこの時期、トリスターノの門下生として彼の音楽を忠実にサックスでリアライズする作業に務めていたが、ギ ターのビリー・バウアー、テナー・サックスのウォーレン・マーシュ以下、このアルバムに参加したミュージシャンはみなトリスターノが参加していないセッ ションにおいても彼の支配下にあり(油井正一先生は「トリスターノが催眠術を掛けていたのだ」とおっしゃっていたが)、それぞれが異なった楽器で一糸乱れ ず同じイディオムのソロを繰り広げてゆく。一般的には「クール・ジャズ」の代表にも挙げられるアルバムだが、この緊張感には何か異常なものがあり、特にビ リー・バウアーとコニッツのデュオ『REBECCA』は、どうしてこんな音楽が生まれたのか、相当に謎は深い。
sub(100):Lee Konitz & The Gerry Mulligan Quartet
53年、西海岸に移動してマリガン率いるピアノレス・クインテット(TPはチェット・ベイカー)と共演した録音。コニッツの、殆ど神がかり的に凝縮されたソロは何度聴いても背筋が寒くなる。これより先にも後にもない、歴史に屹立する『LoverMan』の美しさ。