東京サーチ&デストロイ (第4回)
東急東横線が「高島町」と「桜木町」という二つの駅を盲腸みたいに切り捨て、「みなとみらい線」という新しい地下鉄につながって「元町・中華街」を終点 とするようになってからもう二年半が経つ。この連載は「東京サーチ&デストロイ」と名乗っているけれど、実は僕は普段は横浜で生活している人間であり、何 かイベントや仕事がある度に都内へ出て行くことにしているのだが、ぼーっとしている間にいきなり最寄り駅である東急桜木町駅が消滅していたのには衝撃を受 けた。MM(みなとみらい)地区とか言って20年近く港湾周辺の整備をしているのは勿論判っていたけれど、まさか本当に東京への導線自体を変えてしまうと は…。まあ、変わってしまったものはしょうがない、あまり阿呆なスクラップ&ビルドが始まらないように(森ビルが再開発にガッチリ絡んでるって話だし)祈 るばかりである。実際、関内馬車道周辺で進められている「BANKART」や「北仲BRICK」などのプロジェクトでは、制作場所を求めるアーティストや 学生に空いた建築物をリストアして提供するって作業も始めているようで、横浜のアート/演劇/ダンス・シーンの活性化にこれから一役かってくれそうではあ る。
今回はそんな何かと騒がしい我が地元横浜でおこなわれた二つの公演を取り上げたい。ダンスを中心においたパフォーマンス・カンパニー<ニブロール>の振 付家である矢内原美邦によるソロ・プロジェクト第二弾『青ノ鳥』と、中野成樹(POOL-5)+フランケンズ 、劇団山縣家 、劇団820製作所、ユルガリ、という若手四団体が参加した「Summerholic 06 -恐怖劇場- 」である。場所はどちらも横浜西口のSTスポットだ。
STスポットは87年オープンということだからもう老舗ですね。さまざまな試みに理解がある貴重なスペースで、以前から提携や支援という形で若手アー ティストの育成に務めてきた。そういえば、僕は九〇年代の半ば頃に(いま調べてみたら96年でした)なんとリー・コニッツのソロをこのキャパ50人ほどの 場所で見たことがある。今回のこの二公演はたまたま7月1日と7月8日という近い日程で上演されたものに僕が行って来たというだけであって、直接的なつな がりはないのだけれど、どの作品も確かに「演劇」であると同時に、なにかそういったものをどうしようもなくハミ出した過剰さが感じられ…その過剰さは、例 えば「激しい」とか「厳しい」とかいった形容で表されるような「強さ」を感じさせるものだけではなく、だらしなく崩れているとか、上手くまとまっていな い、とか、話が良く判らないとかいった、何が無駄で何が無駄じゃないのか簡単に整理が出来ないような、そんな弱い?過剰さがそれぞれの作品に組み込まれて いて、そこがまず僕には非常に<しっくりときた>。ステージ上で出来ることっていうのは、本当に本当にたくさんあるんだな、というのが二公演を見ての素直 な感想です。
九〇年代の後半から00年くらいにかけて旗揚げした演劇やダンスの団体が、ステージ・プロパーの枠を超えて、僕みたいな音楽をやっている人間にも凄くア ピールする作品を発表し始めているよ、といったことを教えてくれた友人がいて、それで僕も最近いろいろと勧められたステージを見に行くようになったのだけ れど、観劇の素人ながら感じるのは、舞台というものを成り立たせている装置に対して彼らがはっきりと、でも自覚的というよりもほとんど生活者としての基本 的な所から「んー?」と思っているということであり、まず自分たちの身の丈にあった範囲でそういった基本の感覚を舞台に載せてゆき、そうやっているうちに その結果がまっすぐ自分とそのジャンルの歴史になっていくような、なんというか、殆ど世界創造時のようなデタラメな軽さと明るさが彼ら彼女らのステージに は充ちているように僕は思って、こっちも元気になってくる。久しぶりの感覚で、そういえば音楽の分野ではしばらくこうした雰囲気を味わっていなかったよう な気がする。話がつい抽象的になっちゃったけど、今度機会を作ってもうちょっと具体的に書くようにします。とにかく、演劇はすごく面白い。横浜サーチ&デ ストロイ。