<Studio Voice> DISKガイド10枚
大谷能生
「まだまだ音楽を作るために参考になる10枚~20枚」という感じで選んでみました。もう10年来聴いているものも、つい最近出会ったものも区別なしに 入っていますが、こうやって選んでみると最近の自分の関心が何処に向いているのかが正直にあらわれていて、めずらしく? 個人的なファンタジーに基いたリストになっています。リズムと音色の配分から偽史を導く作業に向けて。
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●「Place Vendome」/MJQ with The Swingle Singers
ビートルズのアップル・レーベルからもアルバムを出しているMJQ=モダン・ジャズ・カルテットは見た目はクールだけど、多分ジャズ史上一番気が狂って いるグループなんじゃないかと思う。ジョン・ルイスの妄想力は時空を超える。このアルバムはパリでフランス人を中心にした八人組の混成コーラス・グループ と共演したもので、なんというか、いまこんな音楽を演奏してるグループがあったら絶対見に行く。
●「Nouvelle Vague 」/OST
仏つながり。ゴダールの映画「ヌーヴェル・ヴァーグ」から、会話や物音も含めてサウンドの全てをCD二枚にパッケージングしたもの。劇中で使われている 音楽の殆どがECMの音源だから出来たことだろうけど、ミュジーク・コンクレートってどうしてフランス人と相性がいいんでしょうか。食べ物? リュック・ フェラーリの全集とか出ないかな。
●「Step Across The Border」/Fred Frith
サントラと言えばこれは大変良く聴きました。自分史的には九〇年代を代表する一枚。でも収められている演奏自体は七〇~八〇年マナーで、実はこの辺りの ポスト・フリー・インプロヴィゼーション・ミュージックって今まったくアクセス出来なくなっているんじゃないだろうか。欧州の広さと、そこから米国までの 距離がそれぞれどれくらいあんのかってことを改めて思わせるフィールド・ワーク。
●「original music for PINERO」/Kip Hanrahan
このあいだ渋谷の飲んべえ横町でキップ・ハンラハンとおでん食べて焼酎を飲みました。その時クラーヴェの話になって、「日本のクラーヴェはスタジアムに 行けば判る。勿論ベースボールのスタジアムだ。あの応援のリズムこそがジャパニーズ・クラーヴェだ」みたいな話をしました。あとヘンリー・ミラーの「黒い 春」にサインして貰った。「あなたの音楽を聴くと、ブルックリンを描写したこのミラーの自伝的小説を何時も思い出します」。
●「The Thelonious Monk Trio」/Thelonious Monk
変なシンコペーションの付いているモンクの曲/フレージングにアート・ブレイキーのポリリズム・ドラミングが絡んで、もの凄い抽象度が高いのに曲自体は 手のひらサイズっていう、不思議なスケール感の曲が詰まったアルバム。やってる事とか曲の構造とかは細部まではっきりと見えるんだけど、何度聴いてもそれ がどういう仕掛けになってるのか納得出来ない。こういった芸術がもっと欲しいな。
●「Love Cry」/Albert Ayler
アルバート・アイラーのアルバムではこれが一番好きで、それはアイラーのアルトの音色が好きなのと、ミルフォード・グレイヴスのドラミングが素晴らしい から。このアルバムも凝縮された曲が並んでいて、極彩色の軍楽隊+ラテン+ゴスペル+コズミック・ソウルが沸騰している。アイラーのヴォーカルも最高。
●「The Best of Jelly Roll Morton: 1926-1939」/Jelly Roll Morton
ニューオリンズからやってきた巨匠の中でも最もラテン・フレイヴァーに溢れていて、なおかつヨーロッパ・クラシック音楽の教養が感じられるモートン。彼 の曲も複雑ですねー。カリブ海の首都としてのニュー・オルレアン。非常に映像喚起力があるサウンドで、フレッチャー・ヘンダーソン楽団とデューク・エリン トン楽団と聴き比べると色々と考えるところがあります。
●「カメラ=万年筆」/MoonRiders
複雑で凝縮されていて、で、映像喚起力を持っている三分間ポップスということで思い出したのがこのアルバム。何時でも聴けると思って人にあげちゃったか らいま家にないんだけど、凄く聴きたくなってきた。テープであったかな? スピード感があって、パーツに分解出来て、なおかつポップっていうバンドは、い まの日本だったら誰になるんでしょうか?
●「SIiverization2」/V.A.
あるいは、360°の「サーキット・ブラジレイロ」。テクノ、ヒップホップ、ジャズを独自の回路で結んだ、九〇年代後半の日本における最重要盤。ビー ト・ミュージックにおける音像のケース・スタディ。夜の気配が濃厚で、雨が近づいてくる匂いもワンルーム・マンションの窓越しに感じられる。SOUPディ スクはまだまだ健在で実に頼もしい。
●「Quartet for the end of time」/Olivier Messian
音色、旋律、その絡み方など、こういった現代曲のサウンドをモダン・ジャズ的な即興に取り入れる方法ってのはまだまだ探究出来ると思う。ロン・カーター がチェロを弾いてるエリック・ドルフィーの「Out There!」と、メシアンやバルトークを結ぶライン。メシアンのこの曲は、三〇〇年くらい後(または前)に、南米の地方都市にあるカトリック教会で礼拝 用にずっと演奏されているもの、と思うと俄然面白く聴こえてくる。ように思う。
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