2001年、サイトBK1

音の鳴る場所で 〔12〕: 2001.05.28 at 新宿pit inn & 表参道GALLERY360°

5月になると僕は毎年、特に身体の具合が悪いというわけでもないのに、なんとなく仕事のまとまりが悪くなったり、ちょっとしたことで気持ちが後ろ向きに なったりとか、どうにも調子が出ないまま、一日くさくさして過すことが多くなる。理由は勿論よくわからないけれども、誕生日直前のシーズンは生命力ががく んと落ちる、っていうような話を批評家・仏哲学の丹生谷貴志氏がなにかの本のあとがきに書いており、それを読んでからは星の巡りのせいだからしょうがない ことだ、と考えることにした。いずれにせよ何事も捗らない一日、ひさしぶりに昼から東京に出て、学生の頃みたいに新宿ピットインの誰もいない客席に座って ぼんやりしよう、と思った。
都営新宿線・新宿三丁目の駅についたのは2時30分。ちょうどライブ開始の時刻だけれど、どうせ定刻に始まったりはしないので、僕は余裕を持って入り口 につながる階段を下りていく。同じ地下フロアにあるゲイ・クラブもこの時間ではまだ営業しておらず、おしゃれな格好であわただしく店を出入りしている彼ら の素敵な姿を見ることはできない。チャージを払って店の中に入り、古い知り合いでもあるギタリストの斉藤“社長”良一に挨拶をする。お前、なんでこんなと ころいるんだ/忙しいなか、わざわざ見に来たんですよ/なんだ、偉そうに、と、お互い顔に微苦笑を浮かべながら久しぶりの会話を交わす。今日出演するバン ドはweedbeat。SOUPDISKというレーベルから97年にアルバムを出しているので、もしかしてその名前を聞いたことがある人もいるかもしれな い。リーダー、ミドリトモヒデのアルト・サックス、社長のギター、AmephoneやTUKINOWAのアルバムにも参加している塚本真一のピアノ、リズ ム隊は中野雅士のベース、河本隆弘のドラムス、それにこのあいだも取り上げさせていただいた角田亜人がターンテーブルで加わる、という布陣だ。以前は確か 2ドラムス、2ベースという編成だったと思うのだが、ミドリ氏の話ではそれぞれ事情があって最近ドラムスとベースがひとりづつバンドから離れ、今回がこの 編成になってから初めてのステージだという。
お客は結局、2ステージを通して3人しかいなかった。いや、2人かな? 演奏は、いささかリズムにふくらみを欠くところがあったけれど、社長のギターも 冴えていて、集中力が途切れることなく聴くことが出来た。それぞれ個性の異なるピアノ・ターンテーブル・ギターという3種の音色をどのように配置してゆく かが、今後のパフォーマンスの鍵になるのでは、と思った。
店を出て地上に戻ると、もう6時近くだというのにまだまだ外は明るくて、雨の降る気配もないし、このまま歩いて表参道にあるGALLERY360°まで 行こうと思う。東京の道のことは詳しくないけれども、まあ、ゆっくり歩いても40分くらいで着けるはずだ。新宿からでもはっきりと見える、代々木駅前に出 来た、なんちゃってNYみたいなNTTの高いビルを目印にして、とりあえず明治通りの方向へと歩いてゆく。僕は新宿御苑を挟んでピットインの反対側に位置 しているアート&ライブ・スペース、代々木OFFSITEの横を抜けて(今日は確か秋山徹次、アストロ・ツイン、といったメンバーがこれからライブを行う はずだ)、明治通りを下り、キラー通り(なんで「キラー通り」っていうんだろう?)をついでに通って、南青山に出る。下北沢なんかもそうなんだけれど、こ のあたりの道は横浜のそれとちがって、細い路地のぎりぎりの所まで店が建て込んでいることが多くて、ウィンドウ・ショッピングが好きな人にはいいのだろう けれど、ただ歩きながらぼんやりしたい人にはちょっと息苦しさを感じさせるような気がする。新宿から表参道まで、結局1時間近くかけて僕は歩いた。前売り 番号43番の券を持って、僕はこれからGALLERY360°で小杉武久のライブ・パフォーマンスを見る。

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