6時起床、というわけにはいかない。なぜならイベントが終了して部屋に戻ったのが既に7時だったから。2時頃起床。前田君が淹れてくださった珈琲をゆっくりと味わいながら、少し漢籍にあたる。少しね。その後京都まで出てアーティストインレジデンスに移動。なぜかビル全体が青いビニールシートで覆われているので、工事中かと尋ねてみると「アートです」との事。自転車で赤垣屋へ行き、川崎夫妻、ちろみ君と合流。今年二度目の赤垣屋。うなぎとしめ鯖をまたいただく。やはり脂の処理が絶品。これもアート。ちろみ・川崎君は最初こそ「今日は熱燗を三人でひとつだけいただくことにしようと決めているんです」などと殊勝なことを言っていたものの、これまた絶品の樽酒をひとくち飲むやいなや、つぎつぎに注文し盃を重ねてゆく。禁酒中の私の前でのこのような振る舞いにはいささか腹が立ち「盃は薄手のものに限る。唇に触れるか触れないかの感じで、ひらりひらりと飲むのが良い。グイノミは嫌いだ。盃は薄くて、ひらべったいものでなければ…」と諌めたら、すかさず前田君が「お銚子というのはわざと使い方を難しくするのが遊びなんで、遊びを含んだ使いやすさが銚子の命ってわけだと思うんです…」などと聞いた風なことを言ってきたのでさすがに怒り心頭に発し、常温の樽酒を注文してしまう。けっきょく三人で二時間ほどの間に二升ほどの樽酒を飲んでしまった。読者諸君、もし私が肝障害で死ぬようなことがあったらその責任はちろみ・川崎君にあると思ってもらいたい。戦争は人を殺すが、殺人もまた人を殺す。ちろみ君が店を出る際に、お店の若い衆(そういえばこいつ一人だけ態度が悪かった)に足を無理やり取られ憤慨していた。なだめながらK6へ移動してタリスカ、マティーニ、シュルトリューズ等。みんなアート。K6では最初の一杯こそちろみ・川崎君は気を遣ってレッドアイなんてものをオーダーしていたものの、モルト一杯600円フェア開催中に気づくと卑しい彼らは眼の色を変え「大谷さん、これは飲まないと損ですよ」などと、強引にタリスカ18年、シグナトリーのノースブリティッシュ25年、ダグラスレインのポートエレン1978などを私の目の前にずらりと並べ、あげくの果てには「バーテンダーの腕を見るにはドライ・マルチニに限りますよ」などと言ってさらにアルコール度数の高いものを飲ませようとする。さすがに朦朧としている私にシャルトリューズのエリクシル・ヴェジェタルを飲ませるちろみ・川崎君。ちなみにエリクシル・ヴェジェタルのアルコール度数は71度である。このあと意識を無くし、気がついたらちろみ・川崎君のお気に入りのキャバクラの中。綾瀬はるか似のキャバ嬢美紀ちゃん(仮)に「あなたが好きなことができるのは誰のおかげだと思ってるの!」などとさんざん絡まれる。息も絶え絶えに「あなたくらいの年齢だと、きっと世の中に怖いものなんてないんでしょうね」と皮肉で返すと、美紀ちゃんの顔が急に曇り「あたし、饅頭が怖いんです…」なんてことを言う。落語じゃないんだからと一笑に付そうとすると「そうじゃないんです!饅頭は饅頭でも栗饅頭なんです!」。この一言で意気投合。すっかりいい気分になったちろみ・川崎君はクリュグの1990年を三本も頼み、断りきれずに私も一本強、空にしてしまう。記憶はほとんど残っていないが、美紀ちゃんの問いかけが今も心に響く。「巨人軍の王と長嶋は、堀内の球を打てるかしら…。堀内が、もし、他の球団にいたとして、打てるかしらね…。堀内と平松と、どっちがいいピッチャーなの…。堀内が大洋へ行ったら、巨人軍は優勝できるでしょうか…」 。